BiSに乗り遅れたオタクがエビ反りダンスで成仏できた話

 私はBiSに乗り遅れたオタクだった。

 アイドルに本格的にハマったのは2013年春ごろ。もうBiSはバリバリ活動していたし、面白いアイドルとしていろいろ話も耳にしていた。周りにも研究員がたくさんいた。ただ当時MIXを暗記するのに必死だったレベルの自分にとって、BiS現場の壊れぶりは「まだちょっと早いかな」と感じていた。リフトとか客席で脱ぎだすとか、ぶっちゃけ研究員が怖かった。私が最初で最後に見たBiS現場は、取材で行った、解散発表後に行われた東京・新宿ステーションスクエアのフリーライブで、話の通り研究員の盛り上がりは駅前ライブといえど凄まじいものだったのだけれど、その激しさを目の当たりにしたとき、心の底から「あ、自分乗り遅れたな」と感じた。モッシュも最前も人並みにはこなせるようになった今、BiSはもういない。

 4月29日に日比谷野音で開催されたBILLIE IDLE®の「ANARCHY TOUR FINAL "IDLE is DEAD!?"」に行ったのは、元BiSメンバーでのMCくらいはあるんじゃないかと期待していたからだった。というより念じていた。TIFでプラニメのお披露目を見てみたり、テンテンコのお渡し物販イベント「おみせやさん」に行ってみたり、みみっちく元BiSメンバーの動向を追っていた私だが、やはり彼女たちがステージ上で横に並ぶ姿が見てみたかったのだ。少しでも伝説の残り香のようなものを味わいたかった。

 沸き目的のオタクをトリップさせるような不穏なDJプレイで聞かせたテンテンコ、「今日はルイフロのワンマンにありがとう!」のMCに「ああ、プールイだなぁ」としみじみ思わされたプールイのLUI FRONTiC 赤羽 JAPAN、オリジナルメンバーのはずなのになぜかここでも(良い意味で)浮いているコショージメグミのMaison book girl、「BiSで目立たなかったぶんここでは目立ちたい」という研究員にはうれしいネタのミニコントを繰り広げたカミヤサキのPOP、そして今回のライブのメインアクトであり、ケレン味だけじゃない圧巻のパフォーマンスで魅せたBILLIE IDLE®。初めて見る演者ばかりだったけれど、どれも楽しかった。あと誠実だなぁ、とも思った。BiSというグループが伝説的存在だったぶん、その後の活動はどうしたってハードルが上がる。でもこれだけのクオリティのものを、着実な成長を見せていっているんだったら、そりゃ研究員の信仰は続いていくよな。グループ卒業後も推しを安心して応援していけるって、オタクとして一番うれしいことなんじゃないか……。

 こんなBiS同窓会的なイベントなんて開催しないほうがかっこいいんじゃないかという意見なんて、元メンバーたちだって百も承知だろう。でも彼女たちは今回に限らず、去年も「BiS一周忌」というイベントを開催するなど、“BiS”を完全には終わらせず、細い糸のようなものは繋ぎ続けている。スパッと断ち切ったほうが、伝説としては美しいだろうに。でもそれをしないのは、やはり誠実さなのではないかと思う。私の大好きなでんぱ組.incはBiSの目標だった武道館ワンマンだけでなく、国立代々木第一体育館での2daysも成功させたし、海外ツアーまで開催している。要するに集客としてはBiSより遥かに上なのだけれど、アイドル史にどちらのほうが強烈に名前を刻んだか? と聞かれると、悔しいけどBiSだろうなと思う。BiSはもはや伝説で、何年後も何十年後も歴史上のものとして語られる存在にまで化した。BiSによってアイドル現場にロックやパンクのノリが持ち込まれたと言われているけれど、それまでのムーブメントを一変させるって、それはやっぱりすごすぎるっす。

 そんな存在だからこそBiSは解散から約2年経った今も人々の口に上り、その凄さは伝わり続け、私のように間抜けなオタクを「乗り遅れた」と後悔させ続けている。BiSはすでに数人の少女たちだけの手に収まるものではなくなっている。それがわかっているからこそ、彼女たちは伝説を美しく終わらせるのではなく、ややみっともないとしても、遅れてきた人々のためにもたまに伝説を復活させる道のほうを選んだのではないだろうか。今の女性アイドルシーンにおいて、「男性アイドルのように年齢を重ねてもアイドルを続けていくグループは現れるのか?」というのはひとつの大きなテーマになっていると思うのだけれど、2年前に解散済みのBiSが同窓会のような形で、それを実現してくれるのではないかと期待している。

 2年以上遅れて、やっと客席で聞くことができた「nerve」。元研究員が多いから当たり前っちゃ当たり前なんですけど、野音に集まった全員がしっかり踊れるあたり、やはりアンセム! 客席の前方では盛り上がった研究員が押し寄せて、警備員と揉みくちゃになっているのが見えた。今度こそエビ反りダンスに参加しながら、私は乗り遅れたオタクとしての自分が成仏できたような気持ちになったのでした。遅刻したけど、今から研究員になります。

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